第33章 闇鍋
影の花の台所。
数十人の飯炊きを行うだけあってそれ相応の大きなへっつい、焼き物用の七輪、立派な水瓶。
陰間たちの歴史を見守ってきたであろう年季の入った水屋箪笥。
そこから楽しげに漏れる鼻歌、溢れる刺激臭。
その前を通った椿はスンと鼻先を動かし、慌てて鼻を押さえた。
「わ〜何これっ、くっさーい!」
「椿ちゃんそんなん言うたらあかんで、誰かがあれ作ってくれてるんやろ。うっとおしがったらバチ当たるで」
「そう言う竜胆にいも鼻つまんでるじゃん……」
「これはほんまに俺あかんねん、耐えられへん」
椿と竜胆は話しながら台所から離れていく。
次に通りがかった瑞は台所を覗き込み、鍋の前に立っている彼に声をかけた。
「紫陽花さん」
「あ〜瑞ちゃん、こんにちは〜」
紫陽花は前掛け姿で瑞を振り返り、にこにこと微笑む。
「こんにちは。紫陽花さん、何を作られているんですか?」
瑞は煮え立つ鍋に視線をやり、紫陽花に訊ねる。
「ふふー、なんだと思う〜?」
「全く検討がつきません……」
鍋の中身はゴポゴポと泡立ち、強烈な磯臭さを放っている。
やや濁りのある、鍋いっぱいの半透明な液体。
紫陽花は謎のとろみが付いたそれをヘラでグルグルと掻き混ぜる。
ひとすくい掬い取ると、
「じゃあ食べて確かめてみて〜っ」
瑞の前に突き出した。
「えっ」