第32章 感情、行方不明
瑞は困った顔になり、話を続ける。
「その……お互いの話に口を挟まれて不愉快かもしれませんが、喧嘩をすることは当たり前ですし、共同生活をする以上は仲直りをされた方が良いのかな……と。もちろん、椿さんの良い頃合でいいですよ! 決して急かしている訳ではな」
そこで椿はひっくと肩を震わせた。
「わ……わかってるもぉん、そんなこと……! 躑躅にいが悪くないのくらい、分かってるもん!」
目元を赤くし、ぼろぼろと涙を零す。
「椿さん!?」
驚く瑞に駆け寄り、服をぎゅっと掴んだ。
「でもっ、瑞が……! 瑞が、躑躅にい、を、ぎゅうってしてた……! ボクにはそんなこと、してくれたことないのに!」
「原因私ですか!?」
「仲直りして欲しかったらぎゅうしてえ……!」
瑞はひくひくとしゃくり上げる椿を見下ろし、言われるがまま抱きしめた。
緩く両腕を回し、小刻みに震える背中を撫でる。
「……どうでしょう……」
椿は顔を赤くしながら、服を握る手に力を込める。
「……こんなんじゃ足りないもん。こんなんじゃ躑躅にいと仲直り出来ない」
「そ、それではどうしたら……」
椿は困り果てる瑞の服を引っ張る。
「瑞のこと、今日は独り占めさせて?」
瑞に上向きの視線を送る。
涙で潤んだ瞳に見上げられ、瑞は頬を困惑しながらも頷いた。