第32章 感情、行方不明
「つ、椿さん、宜しければわたくしのおかず食べませんか? 確か椿さん、こちらが好きだったと」
躑躅は椿に向けて小鉢を差し出す。
椿は様々な野菜の入った卯の花煎りを一瞥し、ぷいと顔を背けた。
「……いらない」
躑躅はしゅんと肩を落とすも、精一杯の笑顔を取り繕う。
「そ……そうですか、それではあとから一緒に遊びませんか? 椿さんの好きな遊びを致しましょう!」
明るい声で言うも、
「いい、別に……躑躅にい、今日もお仕事あるんでしょ? ボクと遊んでないで、体休めた方がいいと思うよ」
椿はにべもなく断る。
「そ、そうですね、おっしゃる通りだと思います。それでは、外に出るついでに椿さんに何かお土産でも買っ」
「ご馳走様ー」
椿は両手を合わせると、箱膳を抱えて台所へと去って行った。
「あ……」
露骨に落ち込んだ様子の躑躅。
「なんじゃ躑躅、喧嘩でもしたんか? どうせしょうもないことで怒っちょんじゃろ、まともに取り合わんでええと思うぞ」
「おれもそう思う。躑躅さん、優しすぎるっすよ」
「そうそう、付け上がるだけよ」
みんなが次々に慰めるも、躑躅は力無く笑って立ち上がる。
「いえ……ご馳走様でした……撫子さん、後から付き添いをよろしくお願いします……」
重い足取りでその場を後にした。
それを見ていた瑞も堪らなくなり、思わず椿に声をかけていた。
「椿さん」
「……なーに?」
椿は不機嫌そうに瑞を見る。
「事情は分かりませんが、躑躅さんを許してあげませんか? 椿さんに冷たくされて、とても落ち込まれていましたよ」
椿はむすっと唇を噛み、黙り込む。