第31章 一難去ってまた一難
「おや。躑躅さん」
躑躅の耳に、探し求めていた声が飛び込んでくる。
「こんにち……は……?」
躑躅は両手を広げ、
「瑞さん……そこを動かないでください……」
瑞に向かってじりじりと近づく。
「それは構いません、が」
「こ……こここここ……」
躑躅の口から連続してこが吐き出される。
瑞はただ事では無い躑躅の様子に軽く恐怖を覚えながらも、言われた通りその場に立つ。
躑躅はじりじりと距離を詰め、
「わッ!」
半ば瑞の胸に飛び込むようにして抱き着いた。
ほっそりした腕を背に回し、頬を染める。
小さく口を開いた。
「この前は……ごめんね……」
蚊の鳴くような声で言い、瑞の胸に顔を埋めるように俯く。
瑞は思いもよらない言葉に瞬きし、ああ、と自分の鼻先を触る。
「この前……? ああ、鼻のことですか」
躑躅はこくんと頷く。
「大した傷じゃありませんし、大丈夫ですよ。もうすっかり治ってしまいました」
瑞は優しく笑い、躑躅を抱きしめる。
目元にきつく巻かれた包帯に手をやり、指先で表面を撫でる。
「あ……」
「躑躅さんは、ずっと心配してくれていたんですね。心配掛けてしまってごめんなさい。ありがとうございます」
柔らかい声が躑躅を包む。
瑞はそっと躑躅の白い手を取り、自分の鼻先に触れさせた。
躑躅は瑞の滑らかな鼻先を撫でる。
「ね」
「……はい……」
安心したように言い、瑞の体温に口元を緩めた。
「ああーーーッ!」
その時椿の叫び声が二人の耳に劈く。
椿の前で抱きしめ合う瑞と躑躅。
「躑躅にいが謝りたい相手って、瑞だったのお!?」
「つ、椿さん……! わたくし、言っておりませんでしたか……」
「そんなに抱き着いたりして……っ」
椿はわなわなと手を震わせ、
「それなら教えなきゃ良かったよーっ!」
二人から背を向けて駆け出して行った。
「待ってください椿さん! これは……ッ」
躑躅が引き留めようとするも、椿は振り返りもしない。
躑躅は低く呻き、瑞の服をぎゅっと握りしめた。
「わたくしに謝り方を教えてくださいませんか……」
「は、はあ」