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影の花

第30章 残酷


「ン……」

口に含まれた唾をゆっくりと揺らし、唇を開いた。

瑞の口から銀の糸が垂れる。

夕顔は濡れた舌先を伸ばし、それを口で受ける。

咥内に溜まった唾液が口端から溢れる。

ぼーっと視線を彷徨わせた。

夜顔は微笑み、夕顔の唇を閉ざす。

「夕、口を閉じて」

「ンッ、んんっ……」

顎をしっかり持ち、楽しげに笑う。

「夕の大好きな僕と瑞さんの唾、たっぷり味わって? 美味しくゴックンするんだよ」

夕顔は嗽をするように咥内で唾液を泡立て、舌を揺らす。

ごくんと飲み込み、

「うっ……あぁ……」

恍惚とした息を漏らした。

「美味しかった? ふふ、良かったね」

夕顔はどろっと目付きを濁らせ、涙目で荒く息を吐く。

全身を大きく震わせた。

「夕は本当は優しくて可愛い子だもんね。瑞さんにも肩肘張らずに、ちゃんと夕の良い所を見せてあげるといいよ」

「うん……」

夜顔はニコニコと笑って夕顔の頭を撫でる。

瑞は似たもの兄弟だなと思いながら二人を眺めていた。

「……夜顔兄さんはああ言ったけど、今日のことは忘れろよ」

「分かりましたよ」

その後、三人でいつものようにおにぎりを食べ、夜顔を自室に見送った二人。

夕顔は瑞を横目で睨む。

「覚えてたらコロス!」

「分かりましたって!」

夕顔は不貞腐れ気味に言い、気疎い顔で瑞を見る。

瑞の手に自分の手を重ね、指先でそっと手首を撫でた。

「あと……マジで悪かった。手、痛くねえか」

「平気ですよ」

瑞は夕顔の手に指先を絡め、顔を綻ばせた。

「……私、夕顔さんのそういう所は前々から可愛いと思っていましたよ」

「うるせー……」
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