第4章 狐の婿入り
椿が叫び、朝顔が泣きじゃくり、瑞は腰を抜かし、まさに阿鼻叫喚。
「ままままま待て待て待て……! コイツ、菊だよ! オレらと同じ陰間!」
「へ」
菊と呼ばれた、すらりとした体躯の少年が頷く。
顎の所で内巻きになった柔らかそうな黒髪と、白い肌。
彼の着ている真っ黒な振袖はうんと裾が短く、つんつるてん。
そして何より特徴的なのは、顔を覆い隠す狐面だった。
「影の花に帰ってきたら二階から知らない匂いがして、襖開けたら知らない人が寝てたから誰かなーと思っテ。朝顔クン泣かせてごめんネ、コンコン」
菊は右手で狐の形を作り、朝顔をあやす。
夕顔は呆れたように頭を掻く。
「コンじゃねーよコンじゃ……お前のせいでオレら目覚めちまったよ」
何となくシラケた雰囲気が漂う中、障子が開く。
「き……きく」
目をやると、息を切らした陰間が立っていた。
菊より小柄な背格好で、歳は同じ程。
かすりの着物を着て、顎くらいで切った落ち着いた色合いの赤髪を乱している。
瑞たちを申し訳なさそうに見る灰色の垂れ目の下にはくっきりとクマが浮いていた。
申し訳なさそうな八の字に下がった眉も、右目の下にある小さな二個の泣きぼくろも、彼を幸薄そうに印象付ける。
あまり健康的とは言えない肌色も、彼の苦労を物語っているようだった。