第29章 番
「やっぱいいよなあ、瑞さん……」
瑞を見送った桔梗は、ほーっと息を漏らして呟く。
鈴蘭は蕩けた顔をする桔梗を横目で見、口を開いた。
「それで、あんたの理想の人の話やけど。男でええんやったら、おるんと違う?」
桔梗の肩がぎくりと跳ねる。
ぎこちなく鈴蘭を見て、また顔を赤くしながら弁明する。
「ま、まあ……惜しむらくは瑞さんは清純すぎるとこだな! おれは、普段は真面目だけど実は好き者っつうのが好みだからな」
したり顔で語る桔梗に、鈴蘭はくすりと笑いを零した。
「なんやあんた知らへんの?」
「何をだよ?」
鈴蘭は桔梗に顔を寄せるよう手招きし、耳元に囁く。
「……あの男、えらい淫乱らしいで」
桔梗の目が開く。
ごくっと生唾を飲み込んだ。
鈴蘭は愉悦感を覚えながら、目を細める。
「良かったなあ、あんたの理想通りやん。普段は猫かぶっててはんなりおっとりしてはるけど、夜はあんたお好みのド助平らしいで」
「は……はあ? 知らねえよ、そんなの」
「甘い言葉はお手の物やし、うちも可愛いて言われて頭撫でられて……」
すらすらと吐き出す鈴蘭。
桔梗は耐え兼ねて鈴蘭の胸ぐらを掴んだ。
「つーか、根拠もねえのにんな事言うんじゃねえよ!」
桔梗の声は怒気を孕み、表情も怒りに満ちている。
対照的に、鈴蘭は冷静な目で桔梗を見る。
「……ほな確かめに行こか?」
ぶつっと呟き、口角を持ち上げた。