第29章 番
一人美人画を眺めていた桔梗。
描かれた美人に惚れ惚れとして、感嘆の息を漏らした。
そこに現れた鈴蘭が桔梗の手にした絵を覗き込み、呆れ顔で呟く。
「また見てるん? あんたも好きやね」
「まあなあ〜……つーか、こういうのにおれの理想の人を探してる訳だ。未来の伴侶はどんな人なんだろうって」
うっとりと言う姿に、鈴蘭は顔を顰める。
隣に腰を下ろした。
「……一応聞くけど、あんたの理想の人ってどないな人なん?」
「やっぱ優しい人がいいよな! それも皆に分け隔てなく優しくて、子供好きだったらいいな。おっとりしてて、それでいて芯があると最高だよな。おれの仕事や生い立ちとかも理解してくれて……」
ぺらぺらと語られるそれに、鈴蘭の眉間にみるみるうちに皺が寄っていく。
桔梗は得意げに言い、最後に声を潜めた。
「それで実は……めっちゃいやらしいんだよ……」
鈴蘭は大きくため息をついた。
呆れた顔で桔梗を見る。
「あんたアホちゃう? そないな奴おる訳あらへん」
「うっせえなあ!」
言い合う二人の傍を人影が通る。
人影は二人に近づき、
「どうかしましたか?」
にこっと微笑んだ。
桔梗の顔がかっと赤くなる。
「瑞さんっ!」
白けた目で見る鈴蘭とがしっと肩を組んだ。
「い、いやいや別に! 何にもっ!」
「なんなん……」
瑞は乱雑に散らばった美人画を見下ろす。
「おや、綺麗な絵ですね。美しい女性がたくさん」
「あっ……! あ、それはっ」
瑞は一枚拾い上げ、慌てる桔梗に優しく手渡す。
「良いご趣味ですね。私は知識はありませんが、絵を観るのは好きですよ」
にこりと微笑んだ。
桔梗の胸がどきんと跳ねる。
「そ……そうすか」
頬を染めながら、照れ臭そうに頷いた。
「ふうん……」
鈴蘭は物言いたげに彼らを見つめていた。