第28章 狼と羊と子羊と
「夕顔さんにもあんな感じなんですか? 何か悩み事でもあるのでしょうか……」
「ああ……なんかよそよそしいっつうか、困ってそうっつうか……。朝顔ぉ……お兄ちゃんに言えないことでもあんのか……!?」
苦悩する夕顔に、瑞は小声で零す。
「……兄馬鹿とはよく言ったものですね」
「んだとコラ!」
夕顔はすぐさま食ってかかる。
「わあ!じ、地獄耳ッ!」
その後もギャーギャーと言い争う二人。
そんな様子を、朝顔は影から見ていた。
朝顔はとてとてと廊下を歩く。
すれ違う陰間たちは誰もが忙しそうで、朝顔の顔は下がっていく。
「わ!」
俯いて歩いていると、誰かにとすんとぶつかった。
「ご、ごめんね」
「朝ちゃん、下向いて歩いてっと危ね〜よお」
顔を上げると、百合がへらりと笑っていた。
「あ……百合おにいちゃん」
百合はにっと目を細め、自分の袂に手を突っ込む。
「見て見て〜これ、超良くねえ?」
江戸扇子を取り出し、朝顔にぱっと広げて見せた。
小紋柄が描かれた粋なそれに、朝顔は目を輝かせる。
「うん! いいなあ、かっこいい」
「でしょ〜。今日朝からこれを自慢するやつ探してたのお」
「朝から……」
朝顔はきょとんとする。
「んじゃあねえ〜」
百合は扇子で口元を隠し、ひらひらと手を振る。
自分から背を向けて歩き始めた背中を、朝顔は引き留めていた。
「ゆ、百合お兄ちゃんっ!」
「んあ?」
「あのね、ぼくのお話聞いてくれる? 相談したいことがあるの」
百合は小さな朝顔を見下ろし、
「いいよ〜」
へらへらと笑って頷いた。