第26章 紅白
「どっ、どどど、どうしてそのような真似を……桃、まさかあな、あなた、瑞さんのことを好」
「よあ、よあい! いー、すう」
桃は一生懸命に説明し、得意げに胸を張る。
何とか聞き取れた単語に、瑞は首を捻った。
「……夜這い……?」
躑躅はハッとした顔になる。
「まさか、桃あなた……瑞さんに、夜這いを掛けようとしたのですか……?」
「うー!」
桃は大きく頷いた。
躑躅は膝から崩れ落ちる。
「それはあなたの村の風習でしょうぅ……!」
「夜這いとはなんですか?」
「……桃の住んでいた村には、夜這いといって、夜に寝ている者の所に行って性行為をする風習があったのです。かつて話してくれました」
「そう、なんですね……」
昔の桃の話をすることは躑躅にとって苦痛を伴うものらしく、無意識に彼の口元は歪んでいた。
瑞は静かに相槌を打ち、躑躅の言葉を待つ。
「普通は男性が女性の元に行くのですが、桃の村では反対に、女性が男性の元に行くことがあったようです。もしかしたら、同性で行うこともあったかもしれません」
瑞が頷く。
「古くは、夜這いには求婚の意味合いがあったそうですが。桃の村では、未亡人のお相手、未通女の手ほどき、男やもめの慰め、未経験者の筆下ろしなどされていたようです。桃が瑞さんをいったいどのように捉えていたかは謎ですが……」