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影の花

第26章 紅白


あわあわと動揺する瑞を尻目に、躑躅はスンと鼻を鳴らして指先を嗅ぐ。

仕事柄嗅ぎなれた匂いに、眉をひそめた。

「これは……」

触って確認すると、桃の着衣は崩れている。

「失礼!」

瑞の身体にも手をやれば、彼の格好は桃以上に乱れている。

瞬間、躑躅は激高する。

「桃に何をしたんですかあああ! 桃っ、今すぐ顔を洗」

「う?」

桃は顔に付いたそれを手で拭うと、

「あ……」

ぺろっと舐めた。

「え、え? 桃、何を……ま、まさか」

桃はにこっと笑い、躑躅に言う。

「躑躅ー、おい、し」

躑躅は声にならない声で叫んだ。

躑躅の割れんばかりの絶叫が影の花中に木霊する。

「瑞さん。わたしは最初あなたを誤解していました。あなたが桃を偏見を持った目で見、避け、あるいは危害を加えるかと思っておりました」

躑躅の言葉に瑞は表情を重くする。

「そんなこと……」

「ええ、あなたはそうではなかった。桃を慈しみ、寄り添い、話を聞き、対等に接しておりました」

躑躅はそう言い切ると、薙刀を握りしめた。

固まる瑞に刃先を向ける。
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