第26章 紅白
「桃、帰りましたよ」
仕事を終えて影の花に戻ってきた躑躅。
真っ先に桃の部屋に向かい、固く閉ざされた戸の鍵を開く。
「おー!」
桃は大きな体で嬉しそうに躑躅に飛びつく。
彼の細い体躯をぎゅっと抱き締めた。
そのまま顔と顔をくっつけ、無垢に笑う。
子供のように頬擦りをする姿に、躑躅は頬を緩ませる。
一日の疲れが吹っ飛ぶようで、白い指先で優しく桃の頬を擽った。
「ふふ。お利口にしていましたか?」
「ん! う、うー」
ぴょこぴょこと飛び跳ねて訴えかける桃に、躑躅は益々表情を柔らかくする。
口元を弛め、
「桃っ! お利口さんでしたねえ! わたしも桃に会いたかったですよ!」
桃の短髪をわしゃわしゃと撫でた。
「うっ、ぅう〜……」
若干嫌そうにする桃。
「桃〜、お腹が空いたでしょう? 喉も乾いたでしょう、早く食べましょうか、今日はお客様から多めにお足を頂いたので、出前を取っても……」
「んや、ん」
桃はふるふると首を左右に振る。
「え? お、お腹がいっぱいなんですか? まさかどこか悪いのでは……!」
思いがけない返事に躑躅は顔色を失い、急いで桃の腹に手をやる。
桃はびっくりして身をよじった。
「やっ、やあ! ちあ、う……」
懸命に言葉を吐き出す様に、躑躅はゆっくりと手を離す。
「ああ、違うんですか。それなら良いのですが、どうしたのですか?」
桃はぱっと目を輝かせた。