第3章 愛情は隠し味
「朝顔さん、菖蒲さん……」
瑞が名前を覚えようとしていると、陰間たちの紹介が始まる。
「次は陰間だな。しんべこより年上で、経験のある、陰間茶屋の主要な男娼っつう訳だ」
「はい」
「桜と……紫陽花、桔梗、夕顔、睡蓮。今は他のは出払ってたり、休んでたりするけど、まだまだいるからな」
目を白黒させる瑞に、萩は面白そうに笑う。
最後に自分を指し示した。
「んで、俺もそうだけど、まわし。陰間の世話焼いたりする付き人みたいなもんだな。ここにいるやつは元々陰間だったんだけど、男相手にやるには歳食っちまった奴で……」
「やけど、そういうのがいいっちゅう男もおるけの。それに女相手にはまだまだ需要があるけえ」
そう言ってけらけらと笑うまわしの男。
萩より若そうな彼の左目は、縦に入った一本の傷で塞がれている。
残った瞳は綺麗な鳶色で、肌もそれによく似た艶のある褐色をしていた。
健康的な肌に、耳辺りで切り揃えたぼさぼさした毛質の黒髪がよく映える。
萩が顔を顰める。
「……撫子、お前なあ」
「そうじゃろ? わしは顔も身体もこれじゃけえあれやけどな」
撫子は隻眼の上に人差し指をやり、あっかんべーをするようにして笑う。
どうやら、紺色の着流しから見える引き締まった身体にも傷が刻み込まれているらしい。