第24章 自由人
「なんやそれ、うちに厚化粧言いたいん? あ〜……ほんまけったいな子やな、自分」
言いながら、自分の頬を庇うように手のひらで覆う。
濃い白粉の下に塗り込められた、消えない痣が疼くようだった。
「別に……顔だけちゃうけど、人が自分の弱みを隠すのんは、ちっさい時に言われた些細な言葉とか、自分の思った違和感とか。それが、喉の奥に刺さった魚の骨みたいにずっと取れへんのとちゃう? そやさかい隠すんやろ。要は、人からこれ以上傷付けられへんように、必死やねん」
菊は鈴蘭の言ったことを頭の中でゆっくりと噛み砕いて理解に努め、薊の顔を思い返す。
目の前で淡々と話す鈴蘭の白い顔を見つめた。
「それで、人が秘密を暴きたがるのんは、面白半分もあるかもしれへんけど。好きな人のことは知りたいもんや。分かったげたい思うし、それが無理でも辛いもんを背負ってんねやったら一緒に背負うたげたい」
「辛い秘密を暴いたら、その人の辛い気持ちを押し付けられちゃうノ?」
「……全部が全部そうとは限らへん思うけど。多分な。秘密を知ってもうたら、前の関係と変わってまうこともあるやろ」
菊は深く考え、梅の顔を思い出す。
しきりに自分の世話を焼く姿、薄幸そうな面立ち。
困ったような微笑み、優しい声と立ち振る舞い。
菊は膝を抱え、足先を動かした。