第24章 自由人
「……それなのに、不思議ですね。ここで菊の素顔を見たのはわたししかいないなんて……。菊、本当に海千山千の皆さんをどう出し抜いたんです?」
「このお面はね、菊が自分で剥がさないと剥がれないんだヨ」
菊は自分の両頬に手を添えて言う。
「でも、客には見せるのでしょう?」
「貴方にだけ特別に見せてあげるって言うとみんな喜ぶからネ」
「存外あざといですね、菊は」
「こういうのは、真実ではなく噂から神秘性が湧くのダ。仲間にも絶対見せない菊の素顔、お客さんだけ見せてあけあげるヨ」
菊は冗談交じりにそんな台詞を吐く。
「末恐ろしいですね……あ!」
梅は目を輝かせた。
「ン?」
「瑞さんっ! と……薊さん」
梅の視線の先には瑞と薊が立っていた。
瑞はぺこりと頭を下げる。
「なんだその言い方は。よお菊、準備出来たか? そろそろ客の所に行くぜ」
「はーイ。そうだ、ねえ瑞さン」
菊は薊の元に寄り、隣の瑞を見上げる。
「はい?」
「菊のお面取った顔、見たくないノ?」
瑞は口元に手を添え考える。
「気にならないという訳でもないですが……本人が隠しているものを無理やり見ようとは思いませんね」
薊はくくっと喉を鳴らして笑い、左目を隠す銀髪を揺らす。
「よっく言うぜ、俺の片目は見たくて仕方ねえって感じだっただろうが」
「そうなノ?」
瑞は真顔で首を横に振る。
「それは薊さんがあまりにも頑なに目を隠していたので興味を引かれた故の純粋な疑問で、理由を知りたかっただけです。絶対に見たかった訳では……本来私は薊さんの片目がどうなっていても別に気」
薊は瑞の尻に前蹴りを入れた。