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影の花

第24章 自由人


「ほら菊、襟元が崩れていますよ」

「あいあイ」

出掛け、梅はいつものように菊の服装を正す。

「ふう。客の前に出る時はきちんとしておかないといけませんよ……菊なりに」

脛まで剥き出しのつんつるてんな小袖に眉を寄せつつ、黒髪を撫でて整えてやる。

毛先は柔らかで、顎の高さに合わせて丸まっている。

最後に黒髪によく映える白い花飾りを添えた。

「この面も。ほんとは何とかならないかと思うのですが」

菊は客を取る日もいつものように狐面を装着している。

無論、顔は一つも見えない。

菊は肩を落とす梅のつむじを見下ろした。

「ねえ梅。なんで瑞さんは菊のお面のこと聞かないんだろウ?」

「え?」

「だって、初めて会った人は絶対お面を気にするヨ。それで、もっと会った人はお面の下を気にするノ。それなのに、瑞さんは全然聞かないヨ」

「最初はこれ以上なく驚かれていましたけど……瑞さんは人の見た目などに頓着されない方なのですよ」

そう言いながら、梅はじわじわと頬を赤くする。

菊はそんな親友の様相に小さく笑い、首を傾げた。

「ほうほウ。でも、ここのみんなはずっと気にしてたヨ? 怪我でもしてるのか、とんでもない不器量なのかとか……お菓子買ってあげるから見せてとかネ」

「そうですねえ。まあ、それほど興味を唆られるものなんでしょう」

「夕顔さんや桔梗さん、竜胆さんなんて、最後は菊が寝てるとこを剥がしに来たヨ」

菊は小刻みに肩を揺らして笑う。

梅はそれに追従して笑った。
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