第3章 愛情は隠し味
一階の大広間に運び込まれた食事に、集まった陰間達は舌鼓を打つ。
一人用の机、箱膳に乗った食事をそれぞれつつきながら、楽しげに語り合う。
「今日の飯うまーい」
「紫陽花と椿じゃ期待してなかったけどな」
「そこ! 聞こえてるよ!」
瑞は聞こえてくる会話にほっと胸を撫で下ろし、ご相伴にあずかる。
ふと大広間に集まった人々を見れば、ほとんどの人が自分よりも年下のようで、何れ劣らず見目麗しい。
どことなくソワソワしていると、そんな様子を見た萩が口火を切った。
「あー、そろそろいいか? さっきから見慣れねえ顔がいるから気になってる奴もいるだろうけど」
視線が瑞に集中する。
瑞は萩に促され、床に三つ指をついた。
「瑞、自己紹介しろ……っつっても、コイツは名前しか分かんねえんだけどな。コイツ記憶喪失でな、自分がどこから来たかも言えねえんだと。まあ日常生活送るのは支障ねえから」
陰間たちがどよめく中、瑞は深く頭を下げる。
「瑞です。今日からここで下働きとしてお世話になります。やれることはなんでもやります、ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします」
すっと上がった凛々しい顔に、陰間たちはまばらに拍手を送った。
「んで……次は瑞に説明だな。ここは影の花。陰間茶屋だ。陰間茶屋っつーのは陰間たちを客に斡旋する場所だな。ま、ここは皆住み込みで働いてるから寮みたいなもんだな。だから風呂も台所もあるし、二階は寝る場所になってる。基本、ここには客は上げねえ」
萩の言葉に瑞がふむふむと頷く。
「そんで陰間っていうのはな」
「ンな事教えたら逃げ出しちまうんじゃねえの?」
瑞が声の方に目をやると、少年らしい面立ちを残した青年。
にやつきながらこちらを見ていた。
青年はしなやかな手足を浴衣から露わに、片膝を立てる。
つんつんと毛先の尖った硬そうな髪を腰まで伸ばし、項あたりでひとつに括っている。
色白な肌と、切れ長な金色の目が、瑞には金目の白猫を思わせた。
瑞が無言でいると、青年はくつくつと喉を鳴らし、身体を揺らすようにして腰をあげた。
そのまま真っ直ぐに瑞の元へ近づいてくる。