第3章 愛情は隠し味
「萩、お前の言う通りこいつは下働きにするのが良さそうだ」
「かしこまりました」
「あとは任せる。適当にやってくれ、くれぐれも金は掛からんようにな」
そう吐き捨て、ちろりと桜に目をやった。
「桜の頼みには敵わんからな」
桜はにこりと微笑み、頭を下げる。
「ありがとうございます、旦那様」
「それじゃあ儂は帰る。今日は野暮用が出来てな。また今度顔を出す」
背を向けたところで、もう一度振り返り、主は瑞を睨む。
「ああお前、問題事だけは起こすなよ。うちのとこの陰間に手を出したら即刻追い出すからな」
「は……はい……」
瑞は一も二もなく頷いた。
スタスタと歩き出す背に、
「行ってらっしゃいませ、旦那様!」
萩たちは頭を下げ、声を揃えた。
主が玄関から出、暫くして、椿が耳の横で手を立てる。
辺りの音を窺う仕草をし、
「……なにあれ〜! あとは任せる、だって! いっつも萩にいにに任せっぱなしなのに、あのはげちゃびん!」
「うふふ、椿ちゃんはげちゃびんなんて。うっ……ふふ!」
ツボにハマったようで噴き出す桜。
「ほんっと癪に障るよな〜、うちの店主は」
「ぼくも苦手〜」
「瑞大丈夫だった? 痛くない?」
主への悪口でわいわいと盛り上がる四人。
呆気に取られる瑞。
萩が大きく咳払いをした。
「話を聞け! 桔梗、椿、紫陽花。コイツはさっき言った通り、瑞。今日からここで暮らすことになった」
「えー! じゃあやっぱり陰間ってこと?」
「そこらへんは後から話す。できるだけみんなが集まっている時の方が良いだろう、飯の時間だ」
「はーい」
萩の言葉に合わせ、紫陽花と椿が皿を取り出したり、つぎ分けたりと食事の準備を始める。
桜、桔梗、瑞もそれを手伝い、食器具を並べるなどの配膳に取り掛かった。