第21章 魔が差す
椿は膳を持ち、座敷に向かって走りながらごくんと唾を飲む。
「ぜ……全部入っちゃった……良かったのかな」
「ちょっと椿、廊下を走っちゃダメでしょ」
「びゃあああ!」
「なっ何よアンタ! ちょっと注意されたくらいでそんな声あげんじゃないわよ!」
蘭との一悶着もありながら、椿はなんとか瑞の元に辿り着く。
「は、はい瑞」
「ありがとうございます」
ドキドキと跳ねる胸を悟られないようにしながら、膳を置いた。
椿は穴が空くほど瑞を見つめる。
「な……なにか」
「ううんっ、なんにもない!」
慌てて身を翻し、自分の席に走っていく。
そんな様子を見ていた蘭は眉根を寄せた。
「今日なーんか挙動不審なのよねえ、あの子……」
「蘭さんもそう思うか。さっきも声を掛けただけで尋常じゃない程驚いていた」
食事が始まってからも、椿は気が気でない。
桜に話しかけられても上の空で瑞を見続けている。
そして、ついに瑞が汁物の椀を持った。
一口啜り、
「……ン?」
ぴたっと固まる。