第21章 魔が差す
夕方、椿は夕食の膳を座敷に運ぶ紫陽花に声をかけた。
「これ、瑞にあげる分?」
「うん、そうだけどお……それがどうかしたの〜?」
「ボ、ボクが運んであげる! 紫陽花にいは休んでて!」
きょとんとする紫陽花から膳を奪い取り、人目につかないところで足を止める。
廊下の隅に隠れ、周囲を見渡しながら袂から例の小箱を取り出した。
「これを入れたら、いいんだよね……蓮華にいの秘密兵器! 帆柱丸……!」
蓋を開くと、妖しげな黒っぽい丸薬が幾つも入っている。
それを意気揚々と摘んだところで、椿は黙り込んだ。
「……これほんとに飲ませて大丈夫なのかなあ。よく考えると蓮華にいのお墨付きだもん……瑞死んだりしないよね……」
思いあぐねていると、
「椿。どうしたそんなところで」
睡蓮からぽんと背中を叩かれた。
「わあッ!」
吃驚して飛び上がり、勢い余った椿の手から薬が零れ落ちる。
幸か不幸か、手から落ちたそれは全て汁物に吸い込まれていった。
椿は硬直するも、
「なんだ、急に大きな声を出して……!」
椿の大声に目を丸くする睡蓮から逃げるように駆け出した。
「ななななんでもないよーッ!」