第3章 愛情は隠し味
「この美丈夫はだッ」
「いや見事なもんだな、もしや昔は料理人か?」
賑やかな台所を、疲れた顔の萩が覗き、呟いた。
「あー萩さんだ〜」
「萩にいにお帰り!」
「おー」
瑞は萩の言葉に真面目な顔で首を捻る。
「……どうなんでしょう?」
桜は目を細め、萩の腹を肘で小突いた。
「ふふ、良い拾い物したって思ってるんじゃない? 萩さん、料理苦手だもんね」
「にいにの切ったネギさあ、お味噌汁の中で繋がってたりするもんねー、こんなふうにびろーんって」
椿が両手を使って示せば、紫陽花もにこにこと微笑んで頷く。
「未だにね〜、未だに」
「皮とか付いたままだったりするもんねえ」
「うるせえぞお前ら!」
あははと和やかに談笑する彼らを桔梗が引き攣った顔で見る。
「ななな何お前らふつーに喋ってんだよ! この人誰だよ!」
震える手で瑞を指刺せば、
「瑞です」
瑞は丁寧に頭を下げる。
「名前じゃなくてさあ! 誰!?」
萩が苦笑いし、
「えっとだな……」
どこから話そうか、と迷いを見せた。
「こいつが件の男か」
瞬間、台所に低いしゃがれ声が響く。
その場にいる者の背筋がいっぺんに伸びた。
瑞の脳内で、萩と喋っていた年嵩の男の声と一致する。
この人がここの主人か、と向き直る。
しゃがれ声の主は、年寄りの痩せた男で、顔にはくっきりと皺が刻み込まれていた。
真っ黒な袴姿で、瑞を値踏みするように見ている。
瑞が男の問いかけに答える。
「はい。瑞と申します、この度は誠にありがとうございます。出来る限り皆様の迷惑にならないよう、お手伝いさせていただきます」
男は返事もせず、瑞の顎を乱暴に持った。
「あッ……」
瑞の顔をジロジロと見、
「顔は良いが、陰間にするにはちと年が行き過ぎてるな。それに記憶喪失ときたか。これから仕込むのも無理そうだな」
唐突に手を離す。