第19章 咲夜
「おい百合、何時だと思ってんだ。寝てるやつもいるんだ、楽しむのはいいが時と場合を考えないとダメだろ」
「は〜……めんどっちいの来た〜」
百合は面倒臭そうに呟き、ぐいっと酒を煽った。
軽く口に含んだまま、ゆっくりと萩との距離を詰める。
「お……おい、百合……」
萩は百合の意味ありげな微笑を警戒して後ずさるも、百合は流れるように萩の腰に片手を回す。
「ん〜ッ……!」
笑って顔を前にやると、萩と濃厚に口付けた。
萩の肩が跳ねる。
瑞と椿は百合の行動に驚愕し、呆然と二人の様子を見つめる。
萩はびくびくと身体を震わせ、弱々しく百合の背中を叩くも百合の身体はビクともしない。
みるみるうちに首筋や耳まで真っ赤に染まり、萩は畳に崩れ落ちた。
放心状態で見ていた瑞は、我に返って萩に駆け寄る。
「大丈夫ですか萩さん!? 百合さん、これ……っ、萩さん、ぶっ倒れてますけど!」
「だいじょぶだいじょぶ、ちょこーっと酒飲ませただけ〜」
「さ、酒?」
瑞が思わず眉根を寄せると、百合はへらへらと頷く。
「そ。こいつ、超下戸だからあ。俺ちゃんの一口分だけでベロベロになっちゃうのお」
口角の左右に指先を当て、あーと口を開く。
鋭い歯の生え揃った咥内を主張するように舌を艶めかしく動かし、にへっと笑った。