第18章 イタミイリマス
今日も働き詰めの躑躅。
疲れで棒のようになった足をさすり、客から貰った手酷い言葉を思い出して溜息を零した。
それでも優しい笑顔を作り、桃のもとへ向かう。
折り詰めを片手に、階段を上る。
「桃! 今日は美味しいと評判の弁当を……」
明るい声で呼びかけようとした時、話し声が聞こえてきた。
壁に張り付き、耳を澄ます。
「……ふふ、そんなことがあったんですか」
「う! つー……いぃ、や」
「それはそれは。さぞや大変だったでしょうね」
桃の弾けるような笑い声。
そして、柔らかく暖かい声。
「あの声は……」
躑躅は思わず階段を駆け上がり、息せきながら彼を見つめた。
「桃と……喋っていたんですか」
格子越しに床に座り、桃と語らっていた彼が躑躅を振り返る。
「はい。桃さんは随分と色々なことを知っていますね。躑躅さんのことも沢山話して頂きました」
瑞はにこっと微笑んだ。
躑躅に気がついた桃が嬉しそうに手を振る。
「……まさか、そんな……」
「桃さん、躑躅さんが帰ってきましたよ。私はそろそろおいとましましょう」
そそくさと腰をあげる瑞。
「うう〜……!」
桃は残念そうに口を尖らせ、柵を揺らす。
「また来ますよ。私がいたらお邪魔でしょうから」
「あ! あっー、瑞、や」
「はい、約束です」
桃と楽しそうに語らい、立ち去ろうとする瑞。
「ま……持ってください!」
躑躅は思わず、去りゆく後ろ姿を呼び止めていた。