第18章 イタミイリマス
「躑躅な。あいつ、客にぶん殴られてから目が見えなくなったんだよ」
その後、萩は躑躅と桃について、ぽつりと話してくれた。
「元々、桃だって昔はふつーのガキだったんだぜ? でも小さい頃に熱病に掛かって、そっから変わっちまったんだよ。文字書きも計算も、何にも出来やしねえ。確か利発な小僧だった気もするがな……昔過ぎて覚えちゃいねえや」
そう言って、懐かしむような目をする萩。
本当に忘れたとは思えないような、悲しげな瞳だった。
「そんで、そんな桃の兄貴分。一番仲良かったのが躑躅だ。桃が熱に魘されてんのに、旦那は金を押しんで医者に連れていかねえ。それでもようやく熱が下がったと思ったら、桃は何にも分からなくなっていやがった。とてもじゃないけど陰間にはなれねえよな」
「そうだったんですね……」
「躑躅は、はなから栄養失調かなんかで片目が見えなかったんだけどな。今みたいに両目使えなくなっちまったのは、最近の事だ」
萩は一服し、また話し始める。
「……そんで、桃の話だ。躑躅は、役立たずになった桃を捨てるって騒ぐ旦那にすがりついてさ。桃の分まで自分が稼ぐって。泣かせるよな」
躑躅が桃に向ける、並み大抵でない思い。
瑞は小さく頷く。
「他の陰間が断るような客にも平気で付くし、どうやらここの外でも客を取ってたみてえだ……朝から晩まで死にものぐるいで働いてたよ」
萩は鼻から息を抜けさせ、声を落とした。