第18章 イタミイリマス
「行ってきまーす!」
「はい、行ってらっしゃい」
いつものように仕事に行く陰間たちを見送り、
「なんだか、ここに来て随分と経ったような気がします」
瑞ははたと呟いた。
相変わらず記憶は戻らないままだが、もはや誰も気にしていないような穏やかな時間が流れている。
「もうここの皆さん全員と挨拶が出来たでしょうか」
傍らにいた萩に問いかけた。
「そうさなあ……後ここにいるのは、百合と」
思い出しながら指を折り、二階に視線を投げた。
「躑躅と、桃か」
「良ければお会いしたいです」
瑞は真っ直ぐに萩を見つめている。
萩は逡巡した後、ゆっくりと腰を上げた。
「……そろそろ、あいつらにも会ってみるか。瑞なら大丈夫だろ」
屋敷の一角。
奥まった場所に位置するその部屋の造りに、瑞は言葉に詰まった。
部屋は障子ではなく、木製の格子で仕切られている。
その上、戸には錠前が掛かっていた。
当然部屋の様子はこちらに筒抜けである。
中は必要最低限な家具だけしかないこざっぱりしたもので、他の部屋と相違ない。
しかし、鍵の掛けられたこの部屋は、まるで牢屋のようだった。
そんな部屋の中に佇んでいる長身の青年。
精悍な身体付きに、麻の単の着物を纏っている。
顔つきはまだ若く、あどけなさが残るものの、男っぷりの良い丈夫だった。
しっかりした眉、意志の強そうな目鼻立ち。
無造作な青緑色の短髪に前髪を一房長く垂らし、襟足は綺麗に刈り込んでいる。
青年は、胸元の蝶を筆頭に、喉から手首足首に至るまで、全身に彫り物を入れていた。