第17章 芽吹き
影の花にて。
「な〜に難しい顔してんだよ!」
上機嫌な夕顔が瑞の背中を叩く。
「ほら見ろよこれ! 夜顔兄さんが買ってくれたんだぜ〜」
真新しい煙草入れを見せつけ、嬉しそうに胸を張る。
何か考え事をしていた瑞は、夕顔に言われてようやく難しい表情を解く。
初めて見た夜顔の素顔。
男にも女にも好かれそうな眉目秀麗な顔立ち。
長い睫毛に縁取られた金色の瞳、線の綺麗な鼻梁、潤いのある紅唇。
すっきりした柳眉に整った顔の形。
どこをとっても端正で、白皙の美青年と言った容貌には、中性的な艶めかしさもある。
兎に角ぞくっとするような美貌だった。
瑞はその顔形もさることながら、幸せそうな笑顔に魅了されそうだったのだ。
瑞はしみじみと呟いた。
「夜顔さんて、本当に日本一の陰間だったんですね……」
「今ッ更何言ってんだてめぇ! オレが言ったこと信じてなかったのか!?」
夕顔は瑞の発言にすぐさま食ってかかるも、
「しょ、正直に言うとそうですね。なんというか、兄弟愛の強すぎる夕顔さんの虚言かと」
瑞は怖気付くこともなく、真っ直ぐに点頭く。
「正直に言うんじゃねえこの野郎! ぶっ飛ばす!」
「やめてくださいよっ!」
夕顔に追いかけ回される瑞の帯には、美しい装飾の印籠が揺れていた。