第16章 兄弟元気で留守が良い
そこにさしかかった撫子。
瑞を見、睡蓮を見、蓮華を見、もう一度瑞を見て、首を捻った。
「なんじゃこりゃ……お前ら兄弟で協働して瑞を絞め殺そうとしたんか?」
「誰がそんなことするか!」
「僕だって! だってこんなに愛してるのに……」
蓮華はうっとりと呟き、瑞の髪を撫でる。
「はあ?」
「兄さんは本当に汚いな! 瑞さんと無理やり既成事実を作ろうったってそうはいかないぞ」
「……ああ?」
言い争う二人を置き、撫子はまだ意識が朦朧としている瑞を介抱する。
瑞はぼんやりとした表情で撫子を見上げる。
「あ、あれ……撫子、さん」
「おい瑞、大丈夫かあ? あいつら随分燃えあがっちょるぞ」
撫子が指し示した先では、睡蓮と蓮華が兄弟喧嘩をしている。
「ああ……その……実は、かくかくしかじかで」
瑞の口から語られた内容に撫子は首を傾げる。
「なんじゃそりゃあ? ガキでもあるめえし……あいつらも結構な陰間なんやけどのう……」
撫子は、ふと瑞に問いかけた。
「なあ瑞、お前さんそげえ良い男なんか?」
「え……」
「色男金と力はなかりけりっち言うけんど……細っこくて柔けえで……」
撫子は驚く瑞の手を取り、優しく手首から上へと撫で付けた。
「撫子さんは何をやっているんだ!」
「……撫子、君は意外と抜け目がないね」
「あちゃー、見つかったのう」
吠える二人に、すまんすまんと笑う撫子。
蓮華は笑顔で撫子を見つめると、ゆっくりと歩み寄る。
手を伸ばし、撫子の胸元にある大きな傷跡を撫でた。
撫子はビクンと背筋を逸らし、慌てて胸を庇う。