第16章 兄弟元気で留守が良い
「君は男だったら誰でもいいのか!? よりによって兄さんなんて趣味が悪い!」
「酷いな……」
「あっ、あの、話を……私の話を聞いてくださ……」
瑞の上半身をゆさゆさと揺らしたかと思えば、蓮華を睨みつけた。
「兄さんも兄さんだ! 兄さんのせいで常日頃から俺がどれだけ肩身の狭い思いをしているか!」
蓮華はわざとらしく肩を竦め、瑞の頬を撫でる。
「なんの事だい? 可愛い弟、優しい兄。完璧じゃないか、ねえ」
「うっ!」
「瑞さんにベタベタ触るな!」
「ぐっ!」
瑞をめぐって押し合い圧し合いをする二人。
間に挟まれた瑞は段々静かになっていく。
「睡蓮。何をそんなにカリカリしてるんだい、三人で仲良くやろうじゃないか」
「いいからさっさと離せ!」
睡蓮が蓮華から瑞を引き離そうと力強く引っ張ると、瑞は無言でだらんと頭を垂れた。
不思議に思った二人が顔を覗き込むと、瑞の顔からは血の気が引き、目もあらぬ方向を向いている。
「これは大変だ! 顔が真っ白だ……!」
「瑞さん大丈夫か!? しっ、しっかりしてくれ!」
蓮華は慌てて襟元から手を離し、瑞の頬をぴしゃぴしゃと叩く。
「う、ぅう……」
「い……生きてた」
「申し訳ありません! 大丈夫ですか!」
ようやく意識を取り戻した瑞は、くらくらする頭を押えて頷く。