第16章 兄弟元気で留守が良い
「あら、蓮華ちゃん? あんた髪切っ……な、なによそんな怖い顔して!」
「蓮華さんおはよーさん。また花札でもしましょうや〜、勿論賭けありで! 今度百合さんにも言うときますわ」
「蓮華にい、珍しいね日の高いうちからお散歩? あ、分かった! また男漁りに行くんでしょ〜」
「蓮華、この前貸した金をいい加減に返せ……。どうせ四目屋で使ったんだろうが」
睡蓮の顔がどんどんと険しくなっていく。
「早く、眼鏡を見つけないと……! 気が狂いそうだ!」
果敢に進む睡蓮の前方に、横切る影。
「うわ!」
睡蓮はそれと勢いよくぶつかった。
相手を押し倒す形になった睡蓮。
「ふっ……!?」
咄嗟に掴んだ彼の襟元をはだけさせ、開いた胸元に顔から突っ込んでいた。
柔らかく甘い匂い、滑らかな肌。
ちらりと覗く尖った先端。
無意識に喉を鳴らした。
「……睡蓮さん、大丈夫ですか」
「その声は……」
はっと顔をあげると、瑞と目が合った。
睡蓮は慌てて身体を離す。
「瑞さんッ! こ、こちらこそすまない!」
「いえいえ」
瑞は乱れた服を整えながら、袂に手を突っ込んだ。
「そう言えば、この眼鏡。睡蓮さんのではありませんか?」
言われて目をやると、確かに自分の眼鏡。
「そうです! どこでこれを?」
「いえ、しんべこの皆さんがこの眼鏡で遊んでいたのですが、睡蓮さんの物だと気が付いたので。渡してもらい、睡蓮さんに返そうと探していたんです。きっと困っていると思いまして」
そう言って微笑を浮かべる瑞に、睡蓮は感動しながら眼鏡を受け取る。
「瑞さん! こんな僕のことを、睡蓮と呼んでくれるんですね!」
「え、ええ。だって、睡蓮さんですよね……」
「瑞さんっ!」
「わっ!」
睡蓮は瑞を抱き締めた。