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影の花

第16章 兄弟元気で留守が良い


午睡から目を覚ました睡蓮。

ゆっくりと伸びをし、

「んん……よく寝た」

満ち足りた様子で呟いた。

片手で寝癖を撫でながら、畳の上を探る。

首を傾げた。

「……おかしいな」

置いておいたはずの場所に眼鏡がない。

寝起きのぼんやりとした頭とぼやけた視界を頼りに部屋中懸命に探すも見当たらない。

壁に手をやり、何とか立ち上がる。

覚束無い足取りで歩いていると、声を掛けられた。

「どーしたんだよ、眼鏡は」

睡蓮は目を細め、相手に顔をうんと近づける。

「な、なんだよ」

「その声は夕顔か。知らん、起きたらなくなっていた。どこかで見てないか?」

「見てねえな。それより手ぇ引いてやろうか? お前、めちゃくちゃ目ぇ悪いだろ」

夕顔の小馬鹿にするような口調に、睡蓮はむっと眉を寄せる。

「うるさい、余計なお世話だ」

「けっ、可愛くねーの」

睡蓮は夕顔から身体を背け、ふらふらと歩き始める。

壁を手で探りながら、足をぶつけ、手を家具に当て、何もかもなぎ倒さんばかりの歩みで突き進んでいく。

「ほんとに大丈夫かよ、アイツ……」

夕顔は顔を顰めた。

「む?」

睡蓮の不十分な視界に小柄な人影が映る。

金色の髪、華やかな振袖。

桜と目星をつけ、声を掛けた。

「桜。すまないが、どこかで僕の眼……」

瞬間、走り去っていく桜。

睡蓮は声を上げた。

「待てっ! なぜ逃げる!」

桜は立ち止まると、改めて睡蓮の顔を見る。

驚きで目を丸くした。

「……睡蓮くんっ!?」

「そうだ、僕の眼鏡を探しているんだがどこかで見かけなかったか?」

「ううん、ごめんね見てない」

「そうか。……それより今、なんで逃げたんだ?」

不審そうな表情になる睡蓮に、桜は困り眉で頭を下げた。

「ごめんね……れ、蓮華さんかと思って……」

「何ッ!? 僕と兄さんを見間違えたのか!?」

桜は申し訳なさそうに頷く。

「うん……睡蓮くん、眼鏡着けてないと、蓮華さんと凄く似てるかも……」

「全く違うだろ! 髪も顔も、目の色も服装も!」

「そうなんだけど、なんでだろう? 雰囲気……?」

睡蓮の顔から血の気が引く。

「……早く見つけないと」

真っ青な顔で、早足に歩き出した。
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