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影の花

第15章 苦労人


菊は首を捻る。

目の前にいる梅は、とろんとした顔で座卓の前に座ったまま、動かない。

どうやら、瑞との外出から帰ってきてからずっとあの調子で固まっているらしい。

「……梅?」

菊が梅の顔を覗き込むと、梅は座ったまま飛び跳ねた。

「わわわわ! なっ、なんですか、菊……」

そして、慌てて机の上に置かれた紙を隠そうとするが、

「あ!」

菊はそれよりも早く一枚拾い上げた。

見ると、それには柔和な笑顔を浮かべる優男が描かれている。

影の花の陰間たちとは似ても似つかないと感じた菊。

梅に顔を向ける。

「これ、瑞さン?」

「い……や、あの……」

梅はモジモジと視線をさ迷わせた後、唇を噛み締め頷いた。

ほんのりと頬を染め、うっとりした表情で呟く。

「瑞さん、意外と力があられるのだと……背中も、わたしと違い大人の男らしく……」

菊は黙って、ほわほわと幸せそうに語る梅を眺める。

「好きなノ?」

「え……」

梅はクマのハッキリした薄い目元まで赤くしながら、恥ずかしそうに頷いた。

「……菊よリ?」

「へ?」

菊は梅に背を向け、スタスタと歩き出す。

「え? き、菊? どこへ……」

梅も急いでその後ろについて行く。

菊は明かりのついた瑞の部屋の前で立ち止まり、

「たのモーッ!」

勢いよく障子を開いた。

「わっ!?」

中でくつろいでいた瑞は呆気に取られて菊を見上げる。

菊はそんな瑞の前に座ると、なまっ白い腕を見せつけた。

「瑞さン! いざ尋常に、腕相撲で勝負ダッ!」

「菊うううう!」
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