第3章 愛情は隠し味
「すっごいすっごいね〜! 美味しそーう!」
「ま、まあまあかな?及第点?」
「ありがとうございます」
瑞がぺこりと頭を下げる。
桜が瑞の顔を見つめる。
「瑞、料理出来たんだね」
「そのようですね。頭で覚えていなくても、手が覚えていたようです。包丁や菜箸を握ると身体が動きました」
「料理出来る男の人、かっこいいよ」
素敵だよ、と桜が撓垂れ掛かれば、瑞はぽっと顔を赤らめる。
「可愛い〜!」
「か、からかわないでください……」
椿がぽつりと呟く。
「……瑞」
「はい?」
そして、つんつんと瑞の腰をつつく。
瑞が視線をやると、椿は大きく胸を張った。
「ボクはー、椿! キミの方がちょ〜っと年が上みたいだけどぉ、ここではボクが先輩だからね」
「ぼくは紫陽花〜。よろしくね〜。新しい子が増えて嬉しいなあ、しかもお料理が上手〜!」
紫陽花もニコニコと嬉しそうにする。
「よろしくお願いします」
瑞は二人に向かって深々と頭を下げる。
椿は更に上機嫌になり、得意げに言う。
「ふふん! なかなか良い心がけじゃん、これからボクにここの事何でも聞いていいからね」
「……椿ちゃんに聞くことはそんなにないんじゃないかな〜、まだしんべこなんだし……」
わいわいと盛り上がる台所。
それに向かって、玄関から荒々しい足音が近づいてくる。
「あ〜!終わった終わった〜!くそ、せっかく綺麗に来た髪ぐっちゃぐちゃだよ……すげーのな、さっきの女……!」
「あ、桔梗ちゃんだ〜」
勢いよく現れたのは、桜と同じ程の年頃であろう、真っ青な振袖姿。
くしゃっとした青髪の短髪に髪飾りを付け、出で立ちは桜と同じく雅だが、喋りや立ち振る舞いは粗野な少年のようだった。
顔つきも幼さを残しつつ、大人に変わりゆくそれをしていた。
小さな黒目が特徴の三白眼と、短い眉毛、やや黄味がかった肌色。
身長は桜より高く、手や足も大きく骨太であった。
きょとんとする瑞を尻目に、桔梗は出来たての料理を見ては腹をさする。