第15章 苦労人
瑞はそんな梅を見つめる。
「良ければ、気晴らしに美味しい物でも食べに行きませんか」
優しく声を掛けた。
「わ……わたしと二人で、ですか。嬉しいですが、そんなことしたら、わたしの悪運が移るのでは……」
「そんなことありませんよ。梅さんは何が好きですか?」
「あ……」
梅はほんのりと頬を染め、俯いた。
「ゆ……湯豆腐、が……」
「良いですね。それでは行きましょうか」
瑞と梅は連れ立って影の花を出て行く。
菊は二人の方に顔を向けたまま、黙っている。
菫が不思議そうに菊を見上げた。
「菊さん、どうしましたか」
「ううん、なんでもないヨ。あ、このトンボ、飛んでかないように糸で括ル? 糸で括って、菫の指に結びつけてあげようカ」
「い、いいです……」
湯豆腐の屋台に立ち寄った瑞と梅は、温かい餡の掛かった湯豆腐を堪能した。
「ご馳走様でした」
「はいよ! また来てくんな!」
屋台を後にし、梅は持参した巾着袋に手をやる。
「美味しかったです……瑞さん、ご馳走様です、あ、あの、お金……」
「そんな、梅さんから受け取れませんよ」
瑞は笑って首を振り、梅に小首を傾けた。
「それより、少しは気が晴れましたか。度重なる災難に、気が滅入っていたようでしたので」
「……す」
「す?」
「凄く、元気が出ました……」
必死に声を絞り出した梅に、瑞は温かく微笑む。
「それは良かったです。良ければまた行きましょう」
「はいっ!」