第14章 山嵐のジレンマ
瑞の身体を抱き寄せ、目を覆っていた手を離す。
顕になった右目は、透き通るような左目と異なり、白っぽく濁っている。
瞳も青色ではなく、光のない灰白色をしていた。
瑞はじっと薊の顔を見つめる。
「だから隠してたんですか?」
「人さんが見て気持ちのいいもんじゃねえからな。ましてや見世物みてぇに見られんのはごめんだ」
「そんなことないですよ。私は薊さんみたいな目を初めて見ましたけど、個性的で綺麗だと思いました」
「寝惚けたこと抜かすんじゃねえよ。猫の金眼銀眼みてぇな縁起物ならまだしもな」
そう言い、薊は微かに目元を弛めた。
「薊さんは猫が好きなんですか? 今、凄く優しい目でしたよ」
薊は無言で瑞の頭に拳を落とした。
「痛いっ」
「お前今すぐ眼帯か包帯買って来い。とにかく前髪が伸びるまで代わりになるもん用意しねえとシバく」
「ええ!?」
「走れ」
薊は無表情に瑞を見ている。
青い左目も、色違いの右目も、射抜くような迫力がある。
薊の硬く締まった腕がゆっくりと組まれたのを見、瑞は慌てて部屋を飛び出した。
そんな姿を見送った桜。
部屋の前にゆっくりと立ち、声を掛けた。
「薊さん」
「なんだ」
薊は障子から背を向け、窓を見つめる。
桜はそっと障子を開いた。
「仲直り、した?」
「……気の抜けた野郎だ。喧嘩する気にもならねえ」
「可愛いでしょ〜! 犬みたいで!」
桜はぱっと表情を明るくし、自分の両頬に手を添えて言う。
薊は小さく口を開き、
「俺は猫派だ」
口角を上げた。
「それと桜、刃物持ってるやつにだーれだはねえだろ」
「反省してるよお……」