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影の花

第14章 山嵐のジレンマ


「じゃ、じゃー兄さんには特等席、桔梗の隣に……」

「いやいやあ! おれの隣は狭いんでえ! 竜胆の隣にい!」

「いんや、冗談冗談。どの口が騒いでんのか見に来ただけだから遠慮しとくわ」

そう言うと、全力で相手に押し付け合う二人の顔を鷲掴みにした。

右手で桔梗、左手で竜胆の頬を、親指と四本の指で挟み込む。

思いっきり押し潰した。

「この口ですこの口っ! すみませんした!」

「兄さん兄さんほんま取れます! 唇が取れますてえ!」

二人から手を離した青年は、唖然としている瑞へと目線を動かす。

「お前さん見ねえ顔だな」

「はい……初めまして、瑞です。下働きをしています、よろしくお願いします」

「ほー」

青年は舐めまわすように瑞を見る。

桔梗と竜胆が固唾を飲んで見守る中、

「ま、仲良くやろうや。薊ってんだ」

ぬっと手を差し出す。

瑞は、薊の節榑のある長い指先をそっと握った。

「っう……」

すると、瑞の手に痛い程の力が伝わる。

薊は瑞がたじろぐ姿を薄く笑って見やり、強く握りしめる。

「よろしくな」

「はい……」

薊がようやく手を離せば、瑞の手のには薄い痕と鈍い痛みが残っていた。

それに気が付いた竜胆と桔梗の顔色が変わる。

薊は肩を揺らし、背を向けた。

「はしゃぐのもいいけど程々にな」

「はいッ!」

「お疲れ様です!」

平身低頭で薊を見送り、竜胆が瑞の手を取る。

「に、兄やん手ぇ大丈夫かっ!? ほんま好かん人やでえ……」

「大丈夫ですよ」

瑞が微笑めば、心配そうにしている桔梗が溜息を吐いた。

薊の出ていった方向をチラ見し、ボソボソと吐き出す。

「こええんだよなあ……薊さん」

「桔梗お前のせいやで、兄やんに謝罪せえ謝罪」

「なんでおれ!?」

「お前がおもろいことするからあかんねん」

「なんでだよ……っておい、あんま声出すなって!」

「お前のツッコミがうるさいねん」

「いやお前のボケの方がうるさい! 絶対!」

瑞は二人の会話に苦笑いしながら、赤い痕が付いた利き手を揉んだ。
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