第14章 山嵐のジレンマ
ある昼下がり、竜胆はゲラゲラと笑っていた。
「あ、アホやコイツ!」
「くそおおおお……! おれはもう一生誰も信用しねえ!」
桔梗が悔しそうに床を叩く。
「穏やかじゃありませんね、どうしたんですか?」
瑞が部屋を覗き込むと、
「瑞さん〜っ、慰めてくださいよ〜」
「わ!」
桔梗は半泣きで瑞に飛び付いた。
綺麗に整えられた桔梗の髪からは、嗅ぎなれない香の香りがする。
余所行きの振袖は乱れ、化粧も剥げかけ、事後の生々しさを伝えるようだった。
瑞は桔梗を腕で受け止めながら、目を白黒させる。
「ど、どうしたんですか桔梗さん?」
竜胆が歩み寄り、桔梗の頭をばしんと叩く。
「アホ、兄やんにベタベタくっつくなや」
「てっ! 優しくしろよ〜……!」
「私は別に構いませんけど……何かあったんですか?」
桔梗の頭を撫でながら首を傾げると、竜胆がゆっくりと語り始めた。
「それがなあ、桔梗今さっきまで仕事行ってたんやけど……呼ばれた先に、客の男だけやなくて、遊女さんもおったんやて」
「へえ……それはその、三人で致すということでしょうか」
竜胆が頷く。