第13章 流れ者
「見たでえ」
背後からした声に、瑞と蘭はびくうっと肩を跳ねさせる。
片手に包丁を握った鈴蘭が立っていた。
「浮気者浮気者浮気者浮気者……あんた、ほんまもんのスケコマシやなあ……ついに本性現したなあ……ふふ……」
「す、鈴蘭さん!? 何を言っ」
「うちがおるんに、あんた何やってんの……? うちは何なん? 可愛いって言うてくれたやん……頭、撫でてくれたやんなあ……?」
鈴蘭はふらりと前に進み、包丁を振り上げた。
「この小指切り落としてあんた宛に送り付けたる!」
そして自分に向けた。
瑞は慌てて鈴蘭に飛びつき、羽交い締めにする。
「やめてください! なんでそんな遠回しな!」
蘭は呆気にとられていたものの、鈴蘭の前に立ち叱りつけた。
「鈴蘭! いい加減にしなさい! 包丁持ち出したりして、瑞ちゃんに迷惑かけるんじゃないわよ」
「このっ、泥棒猫! あんたがたぶらかしたんやな!」
「な、何言ってんのよ」
蘭は予期せぬ言葉に狼狽えるも、床に視線を落とした。
「アタシはただ……瑞ちゃんと話してただけよ。ほんとに何も無いんだから」
鈴蘭はハッと笑いを零し、小生意気な表情で蘭を見上げる。
「そう言う余裕ありそうなのがムカつくんよ。単なる年増の癖にいい女ぶって、ほんま痛いわぁ」
瑞が呟く。
「女……?」
蘭はカチンと来たようで、鈴蘭の言葉を一笑に付し、小馬鹿にするように吐き捨てた。
「あら、可愛いって言われただけで本気になっちゃうようなケツの青いメスガキよりよっぽどマシだわ」
またもや瑞が呟く。
「メス……?」
「ふざけんといて!」
「あんたこそ! ナメんじゃないわよ!」