第13章 流れ者
「アタシ、その時十三か十四よ? 自分のやってる行為の重さなんて考えたこと無かったわ。毎日必死で、客との間に愛なんてひとつもなかった。もう驚いて、狼狽えて。そうこうしてる間に影の花の主人がすっ飛んで来て、その女を叩き出したの」
「そうだったんですね……」
「それから二度と会いに来なかったわね」
蘭は煙管を取り出して咥え、ゆっくりと煙を吐いた。
「でも……そんなこと忘れるくらい時間が経って。アタシも陰間としては薹が立ち始めた頃、あの子がここに来たのよ……」
話しながら、みるみるうちに顔色が陰る。
「すぐ分かったわ。あの子、生まれつき顔に痣があるから。今は白粉で隠してるけど」
落ち着かない様子で、煙管の端を指先で叩いた。
細い煙が室内に紛れ消えていき、煙草の臭いだけが後に残る。
「嘘だと思った、ていうより嘘だと思いたかったわ。あの女がどうして鈴蘭を売ったのか、どういう経緯でここに来たのかは知ったこっちゃないけど。大方ろくなもんじゃないわよね。女ひとりで、それも陰間遊びで出来ちゃった子を育てるなんて無理があるわよ」
「蘭さん……」
蘭は瑞に微笑むも、その笑顔は胸を刺すような痛ましいものだった。
「陰間のアタシが産ませた子供が、また陰間になって。同じ店で働く……地獄よ。鈴蘭を見る度苦しくなるの」
苦しげに吐き出し、白い煙を吸い込んだ。