第13章 流れ者
それからというもの。
廊下で萩と談笑する瑞を物陰から見張る鈴蘭。
そこに通りがかった睡蓮が不思議そうに鈴蘭を見る。
「どうしたんだ鈴蘭。こんな明るいうちから何をしている」
「あの男を監視してるんや。誰彼構わずちょっかい出さへんように」
鈴蘭はひそひそ声で言い、瑞を指さした。
「見てみいあの顔……優しそな顔してるけど、実は萩さんの分厚い胸板狙うてるかもしれへん」
睡蓮はふむ、と頷く。
「そうか、それなら兄さんを監視してくれ。誰彼構わず手を出すのでみんな困っている。瑞さんは俺が見張ろう」
「……そんなんは嫌や」
鈴蘭が視線を逸らした。
「なんだ貴様は!」
「睡蓮こそなんや! 邪魔せんといて! 気付かれる!」
ぎゃーぎゃーと言い争う二人の声と姿がバレていないはずもなく、萩は顔を顰める。
「なんだあいつら……」
「さ、さあ……」
あくる日も。
日向丸の新刊を手に帰宅した菖蒲が、怪訝そうな顔で一点に視線をやる。
視線の先には桜色の二つ結び。
鈴蘭の視線の先には瑞。
菖蒲は鈴蘭と瑞を何度か見比べ、こそっと話しかけた。
「瑞、す、鈴蘭さんがあんたのことすげえ見てるんだけど……」
「知ってます……」
瑞は気まずそうな顔で頷いた。