第13章 流れ者
影の花に戻った瑞は、紫陽花に連れられ鈴蘭の部屋を訪ねる。
「鈴蘭ちゃ〜ん、ぼくだよ〜。開ーけーてー」
しばらくの間を置いて、障子が開く。
気だるそうな顔をした青年が顔を出した。
円な紫色の瞳と小さな鼻が可愛らしい童顔。
「なーん、紫陽花……うち、寝とったんやけど」
不機嫌そうに尖らされた唇。
寝起きと言っているが、手から察して元々色白な肌にたっぷりと白粉を塗っていた。
二つ結びにした淡い桃色の長髪、眉の下で真っ直ぐに切り揃えた重ための前髪。
蝶の形をした真っ赤な布製の髪留めが目を引いた。
大柄な花が描かれた特注品の浴衣を着て欠伸をする鈴蘭。
紫陽花は首を捻る。
「もうお昼だよお?」
「うち夜行性やさかい。夜の蝶は眩しい所じゃ生きてられへん」
眠たそうに伸びをする鈴蘭の袖口から、真っ白な包帯が覗いた。
よく見れば、両方の手首にぐるぐる巻きにしている。