第13章 流れ者
後日、瑞は桜の部屋を訪ねる。
「……という訳で……桜さん、お忙しい中すみませんが、また私に女装をお願い出来ませんか」
簡単に経緯を説明し顔を上げると、桜は目をキラキラと輝かせていた。
瑞の手を両手で包み込み、うんうんと頷く。
「いいよいいよ! うんと可愛くしてあげるねっ」
「ありがとうございます……」
瑞は薄笑いを浮かべ、お礼を言った。
「ありがとうございましたっ! それでは!」
着替え終わると、慌てて桜の部屋から飛び出す。
「今度二人で女の子の格好してお出かけしようね〜!」
桜はにこにこと手を振る。
瑞は真っ直ぐに蒲公英の部屋に向かい、
「蒲公英さん蒲公英さん! 約束を果たしに来たので、失礼します!」
勢いよく中に飛び込んだ。
「あ、主様!」
中にいた蒲公英は目を丸く見開き、瑞を見上げる。
瑞は恥ずかしそうに目を伏せる。
「すみません、返事も待たずに入ったりして……人目に付くのが恥ずかしくて」
ほんのり頬を赤く染め、紅を刺した唇を小さく開き、声を尻すぼみにする。
女物のかつらを被り、桜の柄があしらわれた赤い振袖を纏い、金色の華やかな帯を締めた瑞。
「ど……どうでしょうか、満足しましたか……」
瑞が上目遣いに蒲公英を見ると、ぽーっと眺めていた蒲公英が大きく頷く。
「はい。いつもの主様も女の人の格好をした主様も、どちらも素敵だということで結論がつきました」
「そうですか……それはそれは……」
「これで吹っ切れて、心の底から鍛錬に打ち込めます!」
蒲公英は晴れやかな笑顔を浮かべた。