第13章 流れ者
瑞は言葉を失うも、蒲公英は淡々と続ける。
「後家となった母は生活に困り、蒲公英を売りました。思うのです、父上が死ななかったら自分は武士だったのだ、このような場所にはいないのだ、と。そんな自分が嫌でたまらないのに、ふとした瞬間に、醜い思いがふつふつと湧き出るのです」
「私は、蒲公英さんの思いを醜いとは思いませんよ……」
蒲公英は声を絞り出すように口を切る。
「……主様が自分を布団に入れて抱きしめてくれた時、自分のような夜の世界で生きる者とは違うと思いました。汚れた思いを持たない清らかな方だと」
真っ直ぐに言い切り、視線を上げた。
「主様は何も覚えていないと言われますが、そうではありません。偏見も俗世間のしがらみもない主様は、何もかも知っているのです。自分の甘えた思いを断ち切る為に違う世界から来てくれたと感じたのです」
「そ、そんな……言い過ぎですよ。でも、私が蒲公英さんの力になれているなら嬉しいです」
瑞は照れ臭そうにまごつきながら、顔を赤らめる。
「……しかし!」
「え?」
「主様が自分のように女の人の格好を聞いたと知った蒲公英は……驚くと同時に、この目で見たくなったのです! 主様はどんな着物を着ていたのか、どんな帯を締めていたのか!」
蒲公英は強く拳を握りしめ、膝を叩いた。
話の雲行きが変わり始め、瑞は呆気に取られる。