第13章 流れ者
「これで蒲公英の腹をかっさばいてくれませんか……」
「どうしたんですか急に! しかもこれ……ッ、竹光じゃないですか!」
瑞は竹製の刀を蒲公英に突き返す。
蒲公英は刀を受け取り、多少残念そうに言う。
「流石に真剣は持てないのです」
「まあそれはそうでしょうけど……どうしたんですか? なんでそんな物騒なことを言うんですか」
瑞は縁側に腰を下ろし、その隣を叩く。
蒲公英は示された場所にちょこんと座り、悔しそうに膝の上で拳を握りしめた。
「実は蒲公英……あれからずっと、女の人の格好をした主様のことを想像しているのです!」
「ええっ……なんでそんな」
瑞は、汗で濡れた身体が冷えないよう蒲公英に自分の羽織を着せながら訊ねる。
蒲公英は沈黙の後、静かに語り始めた。
「蒲公英は、陰間として修行を積む者でありながら、女の人の格好をする自分を受け入れていなかったのです。いずれ春を売って生計を立てるこの身を恥じてすらいました」
振り返り、影の花を見上げると寂しげに笑う。
「影の花のみなのことは好きです。感謝しております、尊敬しております。しかし、時折無性に辛くなるのです」
膝の上に置いた竹光を小さな両手で握り、目を伏せる。
「蒲公英の父上は武士だったのです。自分も父上のような武士になりたいと思っておりました」
「今、お父さんは……?」
瑞の問いかけに首を振る。
「死にました。辻斬りに逢い、殺されたのです」