第5章 前夜祭
今日は12/21
バイト終わりの電車に急いで乗り込んだ。
降りたのは最寄りじゃなくて、この地方では中心部の駅。
輝くイルミネーションとまだクリスマスでもないのに賑わうリア充たち。
羨ましい。なんていっつも思ってる。
彼女は、いた。
「つきちゃん!!」
名前を呼ぶとすぐに振り向いた。
「おー。大輝くんバイトおつかれさん」
ロングコートにマフラー巻いて、寒そうに白い息を吐く。
寒いと鼻の頭と頬が赤くなりやすいって言ってたっけ。
彼女は輝くクリスマスツリーに負けないくらい綺麗に見えた。
「ごめんね。クリスマスは予定あるから、今日来てもらっちゃって」
「いやいや!こっちこそ!!!わざわざ予定あけてくれてありがと…ね」
なんだろう。照れてしまった。
昨日、やっぱりクリスマスはだめだって言われてショックをうけたんだけど、今日は予定が空いてるからどうって聞いてくれた。俺はもちろん二つ返事。
「なん食べよっか」
「え、えーと、そうそう!俺紹介してもらったパスタ屋があるんだけど!めっちゃうまくてさ!」
「じゃあそこにしよ。案内たのみます」
リア充が溢れかえるこの街で男女がふたり。
デートだけど、恋人じゃない。
ちょっと寂しいのに、なぜか途方もなく嬉しいんだ。
ちょっと後方に俺を見失わないようにだけついてくる。
なんというか、ほんとに堂々としてて、歩く姿はプロのモデルさんだ。
彼女の前でなんかぎこちなくなる俺は隣歩いてて少し恥ずかしくなる。
俺ももっと、彼女みたいに生きやすく自由に振る舞いたいのに。それとも、それができないから、憧れみたいな彼女の隣にいられてうれしいのかな。
「あ、つ、いたよ!」
ぎこちなさは隠せないまま、こっちでできた友達に教えてもらった美味しいパスタ屋に彼女を案内する。
「ほあ〜。おいしそうな店〜」
「! あ!みてよ大輝くん!めんたいパスタある!」
店前のメニュー表を見て目を輝かせる彼女。
あぁ、この無邪気さとクールさの温度差が好き。
「うん!めっちゃおいしいと思うよ!」
「へぇ〜。ないすじゃん。はいろはいろ」