第2章 植木坑紀(ウエキ コウキ)
p r r r…
アポ無しで電話凸した時は大体取ってくれない。
何時間か後にいつも?レパートリーのスタンプが送られてくる。
いつも声が聞きたいだけだからその後のスタンプを適当に返しているんだけど…
『どーした?』
今日は、出た。
すっかり動揺してしまって返事が返せなかった。
『もしもし?』
「あ、え、やっほ〜。珍しいね」
『今帰り』
「へぇ。そうなんだ。どこ行ってたん」
『友達ん家』
「へぇ〜」
無性に嬉しい。
大好きな声が受話器越しに聞こえてくるから。
本当に最初は声が好きで、声が好きだっただけなんだ…
ネットで知り合った人だ。マイナーな、最近はよく聞くようになった気がするけど、顔出しなしでVtuberみたいなアバターが本人の代わりにキャラクターとして動いてくれる配信アプリ。
適当に配信巡回している時にあったんだ。
DMでのやり取りで仲良くなってからチャットアプリの連絡先を交換した。彼女最近は配信やってないみたいだから、こうやって声が聞きたい時にたまに電話凸する。
いっつも話題を考えているわけじゃないからすぐに会話が尽きちゃうんだけど、彼女は急いで通話をきったりしないから。
「え、友達の家から帰ってことは、一人?」
『うん』
「え、もうすぐ23時よ」
『うん』
「いや、うん、じゃなくて!」
『大丈夫だよ。あとー、家まで徒歩40分』
「いやめっちゃ歩くね!?」
『んーん。ふつーだよ』
「えー?」
配信してる時から不思議な雰囲気を纏った子だったけど、常々おもう。やっぱり変な子だ。でも、この独特な雰囲気の声に癒される。引き込まれてしまうというか、呑まれてしまうというか…
『40分暇するとこだったから、相手してくれるなら助かる』
なんでもない言葉にまた踊らされている。
彼女は本当に変な子だ。