• テキストサイズ

ねぇ

第1章 松田大輝(マツダ ダイキ)


「ねぇぇぇつきちゃん、お泊まりしてくれないのー?」

彼女は抱き心地がいいんだ。
いい匂いがするし、柔らかい肌が気持ちいいし、本当に大好きなのに。

「しなーい」

さっぱりした返答。
最近はいつもこんな感じ。
最初からこんな感じだったけ?
出会った時は本当に運命だと思った。
見た目もそうなんだけど、彼女ほど柔らかい雰囲気を纏った女性は見たことがない。物腰柔らかくて、なんだかぼうっとした印象で、所作がゆっくりしていて、彼女の周りだけ時間の流れが違う感じがする。

「えーーー。やだやだ!返したくないー!」
「今日は帰る。気分やない」
「俺過去一度も手ぇだしたことねーじゃん!」
「…誰にも出させてないから」
「でも…でもぉ…」
「明日、用事ある」
「んー…!!」

力いっぱいぎゅうって、後ろから抱きしめて彼女を腕の中に閉じ込めてたけど、彼女がトントンと俺の腕を軽く叩いたら終わりの合図。俺はずっと閉じ込めておきたいはずなのに、何故か手を緩めてしまう。
俺の胡座からすっと立ち上がって、俺の正面にぽっかり穴が空いた心地がする。

「じゃあね。今日はありがと」

そんなこと言って手を振るんだ。ずるいよ。
玄関へと歩き出した彼女に連動するように慌てて立ち上がった。
いつもの寂しさと動揺が顔に出ないように静かに彼女を静止する。

「…ねぇ、いつになったら付き合ってくれるの?」
「付き合わないってば」
「…っ」

「…ならっ…ならなんでいっつも…いっつも切ってくれないのさ!」

好きなのに報われない。
彼女は毅然とした出立で、ゆっくり俺の目を仰ぎ見た。

「友達」

そうとだけ言った。

「…私と付き合っても、他の友達とも普通に遊ぶよ。それが許せないなら、無理だよ」

彼女はそう言い放った。
…わかってる。俺は唯一じゃない。
俺が初めて告白した時からずっと言っている。
同性の友達はオッケーで異性の友達はダメな社会がわからないって。彼女は本当に何を考えているかわからない。

「ほんとに、ありがとね。まーた遊ぼ」

彼女は本当にずるい人だ。
/ 17ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp