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ねぇ

第5章 前夜祭


鼎side

煌びやかだなぁ。
オレンジ色の暖かい光に彩られた街を闊歩する。今日発売のCDがどうしても欲しくて、バイト終わり閉店ギリギリのショップに滑り込んだのだ。お目当てのものはちゃんとポップも立ててある。特集が組まれているようだった。俺は好きなアーティストのポップというだけで感動してきた。店員さんが丹精込めて作ったそれをじっくり見たかったのだけど、閉店の邪魔をしてはいけない。
早速手に入れたCDを頻繁に袋から出し入れして眺めながら、ルンルン気分で帰途についていた。

「ばいばい」

一本道を抜けてT字路になっている大通りに出たところで、ふと聞き覚えのある声がした気がして、声のする右の方をチラッと向く。そこには、黒上先輩がいた。手を振っている。ちょうど相手は建物の裏にいるらしく見えなかった。先輩はサッと踵を返してこっちに向かってきた。

あ、先輩帰るのか。そうだ、バス停に向かってるんだ。この道の進行方向左にバス停がある。
隠れなきゃと思った。知り合いに街中で出くわすのが苦手なタイプなのだ。サークルの先輩達からの黒上先輩に対する様々な憶測が頭を飛び交う。彼氏はいないらしいとか、実は超イケメンで金持ちの彼氏がいるだとか、実はすごく可愛い彼女がいるらしいとか…
相手は建物の角で別れたみたいだから見えなかったけれど、ど、どうしよう。

咄嗟に引き返そうとしたんだけれど。

「あれ。熊谷くん」

彼女は、歩くのが早い。
いつの間にか先輩は、いた。

「あ、そっか。熊谷くんの好きなアーティストさん。アルバム出したんだっけ」

手に抱えていたショップの袋を見て先輩はそう言った。

「え、あ、はい!」

声が裏返る。
やっと絞り出した声がこれだ。
先輩はにっこり笑うとそっかそっかと言った。

「熊谷くん帰り?方面一緒だよね。よかったら一緒帰ろ」

そうだ。あのホテルにいた日。
起きた先輩と一緒に帰ることになって、おんなじ方面のバスだったことが判明してたのだ。

「は、はい!ぜひ」

俺も笑ってみせる。
帰るだけ。そう、ただ、先輩と帰るだけだ。恋愛初心者すぎるというか異性慣れしてないのもあるんだけど、先輩は高嶺の花すぎる。俺の身長が平均よりも低いのも、先輩はヒールを履いているのもあって先輩は大きく見える。何より、屈託のない笑顔の先輩が一段と可愛いかった。

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