第3章 隣同士の理科室

と……届かない。

黒板消しを持った私は、黒板のてっぺんを睨んでいた。

今日は私が日直の日。

授業終わりに黒板を綺麗にしていた私は、ふと黒板のてっぺんに白色の線が走っている事に気がついた。一度その存在を認知すると気になってしまい、私は背伸びをしてその線を消そうとしたのだが届きそうで届かない。
私の身長が云々と言うよりかは、白線が絶妙な位置にあるのが悪いと思う。

私しかいない教室に誰かが入って来たが、私は白線に気を取られていて、足音がしている事に気がつかなかった。

ふと、背中にふわりと体温を感じた。

軽く首だけで振り返ってみると、それは吉田くんな事が分かった。
視界に、彼の着るシャツが広がる。
少し目線を上に上げると吉田くんと目が合って、慌てて目を逸らした。

私のそばに置かれていたもう一つの黒板消しを手に取り、吉田くんは私の背後から白線を消している。

「……はい、消えたよ」

思いのほか近くから声が聞こえて、少しドキッとしてしまった。

「あ、ありがとう」

「苗字さん、まだいたんだ。日直って苗字さんだけだったっけ？」

吉田くんは黒板消しを元の位置に置き、私から距離を取りつつそう言った。

「相方は『前に提出し忘れたプリントを先生に渡す』って言って、先行っちゃったんだよね」

言い終わってから、疑問が湧いた。

「吉田くんこそ、何でここに？」

「忘れ物、取りに来た」