第5章 ドレスローザ
明らかに自分を捕まえようと向かってくる様子に、マルーはたまらずその場から走り出した。
「待てェ! 逃げるなー!」
どうやらドンキホーテファミリー以外の奴には従わせる力はないらしい。
だが大人しく捕まってもいいことは何もないだろう。
マルーは全力で警察を撒こうと街中を駆けていく。
『クソ……ッ。走りにくいなこの脚!』
慣れない6本脚をめちゃくちゃに動かしながら走る。このままではいつか躓いて転倒してしまう。焦りながら走り続けていると、何かに首根っこを捕まれた。
『!!』
脚が地面から浮いたが、後ろの警察との距離はどんどん離れていく。しまいには跳び上がり、どこかの敷地内に入ったみたいだ。
「ここまで来れば大丈夫だ。……混乱しているみたいだな。オモチャになったばかりか?」
鉄格子の窓に立った影がマルーに話し掛けてくる。どうやら同じオモチャのようだが、逆光で姿がよく見えない。
『昨夜ドンキホーテファミリーの小娘にやられた。……助けてくれてありがとう。それはそうと、ここはどこだ?』
「コロシアムだ。ほとぼりが冷めるまでここに居た方がいい。ここなら警察や海兵は立ち入り禁止だから、次追われて撒けなければコロシアムに逃げ込みなさい」
そう言うオモチャの声になんだか聞き覚えがあるのを感じたマルーは確かめようと近寄る。外の眩しさに目を凝らしてよく見ると、昨日話し掛けてくれた兵隊人形だった。
『あッ、また会ったな! アンタも元人間だったのか』
「……失礼、私は君のことを存じない」
『ああ、今はぬいぐるみになってしまったから分からないか。ほら、昨日の昼間私が木陰でタバコ吸ってたときに……アンタが……』
まったく心当たりがなさそうな兵隊の様子を見て、マルーが説明を途中で止める。
『……何が起こっているんだ? オモチャになってからずっと理不尽な目に遭ってる。私はこれからどうなるんだ……?』
「……私から君にしてやれることは何もない。ただ、今の姿で誰かに自分が人間であると公言するのは危険だ。我が身が大事ならオモチャとして振る舞ってくれ。それと……知り合いに助けや理解を求めることも止めておいた方がいい」
兵隊が物憂げに言う。マルーはその忠告の内容すら理不尽に思ったが、頷く以外に出来ることはない。