第5章 ドレスローザ
覚束ない手つきでタバコに着火し、そっと口に咥えてから木に凭れかかった。
街中には建設中の建物もそこそこ多いみたいだ。ドンキホーテファミリーのマークが入った建造物もそこかしこにある。
あっちに見えるのは……円形闘技場か。これはドレスローザについて書かれた本に記載されていたから知っている。
『(そして向こうに見えるのが……)』
遠くに建つ王宮をマルーが静かに見据える。
ドフラミンゴはあそこにいるはずだ。王宮であるからには警備もしっかりしていることだろう。
なるべく怪しまれないように観察して、人手の少ないところを探して侵入を試みるか。
マルーはそんなことを考えながらぼんやりタバコの煙を吸い込んだ。
『うえッ……ゲホゲホ、オエエッ!』
相変わらず肺と喉に優しくない味がする。ロシナンテが好きだったからと何となくで吸ってみたが、やはりこれは好きになれそうにはない。
相容れないタバコを一旦口から離して溜め息を吐いた。
燻る煙が空中に上っては消えていく。
もう吸いたくない。前のときは……ロシナンテが残りを吸ってくれたんだっけ。
ロシナンテに会いたい。でももう会えない。
だから寂しさを、怒りを、会えなくなった原因にぶつけてぶち壊してやりたい。
『お前は願ってなんかないんだろうけど……私は復讐がしたいんだ。見守っていてくれ、ロシナンテ』
完全に自己満足だ。逆恨みだ。正義などない。
でもこの気持ちだけでここまで来た。私は私のためにロシナンテの仇を討つ。
『(何が何でもドフラミンゴに接触し、私のロシナンテへの無念を晴らす。それだけだ)』
自分の復讐心が限りなく独善的だと分かっているけれど、ロシナンテの死に纏わる何かを壊したくてたまらない。
この1年その衝動だけが前に進む糧だった。思考停止して、友の死をいつものことと受け入れ日常に戻るのがどうしてもできなかった。
規則を破ってまで機密の資料に手を出し、旅行と偽ってドレスローザまで来た。企みは誰にもバレてないから今ならまだ引き返せるが、ここで止まりたくない。
すごすご帰る真似など絶対にしてやるものかとタバコをまた口に付け、少し吸い込んだ。
『……ゲホッ』
苦くて臭くて不味い。でも、途中で潰すのは忍びない。
ロシナンテも連れていくようなつもりで持ってきたのだから、中途半端に捨てるのは憚られた。
『畜生。バカみたいだ……』